◇◇◇天気の良い日◇◇◇

下町にある小さな車屋。

その小さな車屋で店長として働いている。

従業員は3人。社長と俺ともう1人。みんな中学の同級生。

この車屋を立ち上げるときに、一緒にやらないか、と声がかかってきた。その頃はトラックの運転手として働いていた頃だった。俺が以前、中古車販売の営業をしていたこともあって声をかけてきたんだろう。

トラックの運転手をしていた頃は、必死で働いていた。睡眠時間はいつも3時間くらいで、休みもほぼ取らずに、何かに追いかけられてるように、必死で働いていた。必死で働いても、経済状況は良くなった感覚は無かった。

結婚して、幼い娘が2人いた。夫婦仲は悪く、俺が家にいるとケンカばかりになる。子供の前でもケンカが始まるので、家に帰らないようになっていた。車で寝泊まりする毎日だった。

そんなどこを見ても最悪な状況で、何かを変えたいと思っていたし、車屋をもう一度やってみようかな。と考えた。

車は子供の頃が好きだった。18歳で免許を取ってからは、憧れのアメ車をカスタムして乗り回したりしていた。給料を貰ったら車に注ぎ込んて、車をいじっていた。友達を乗せて、派手なアメ車を走り回して、あの頃は楽しかった。

と、事務所でいろいろ思いを巡らせている時、外をふと見ると、とても良い天気だった。

もうすぐで、桜が咲く季節になる。晴れた暖かい日に、何の不安も不満もなく、痛いところもなく、ゆっくりゆったりと過ごしたいなぁ。今の1番の望みは、そんな1日を過ごしたい、ということだった。

いつかそんな日を過ごすことは、俺の人生にあるんだろうか…

考え過ぎると不安や不満、ネガティブなものがいつもよりパワーを増して大きくなっていく。。。とりあえず、コーヒーを淹れて外を眺めながら少しだけ休憩しよう。コーヒーは好きだ。でも、缶コーヒーは好きじゃない。なんだろう、、、香料が入ってるせいか、缶を開けた時の、飲んだ後の匂いが嫌いだった。コーヒー豆の持つ素晴らし香りが香料という添加物で台無しになってる気がする。だから、コーヒーを飲む時は、少し手間でも自分で淹れて飲むようにしている。幸い、事務所にはコーヒーを淹れるための器具は揃っていた。社長が、変てこなこだわりで、コーヒーにはこだわっていた。コーヒー好きな俺には有難いが、そのこだわりを仕事に活用できないか、と不満にも思った。社長と言う立場になって、気分がいいのか、いい格好しいなだけ。仕事全般は全て俺任せ。付き合いがあるから、と事務所から出て行くことも多かった。まぁ事務所にいても、売上あげろ、とか、自分は何のアイデアもないのに人にばかり求めてくるので、いない方がマシだ。友達と商売はしない方がいい、とは聞いたことはあるが、こうも上手くできないのか、と感じながら仕事をしていた。

生きていく上で、人との付き合いの中で、優越感や劣等感を感じることは多々ある。そんな感情は要らないよなぁ、と思う。お金持ちだから、良い車に乗ってるから、人より上なんだろうか?努力した結果上手くいかないことなんて山のようにある。だから人より下なんてことも無いように思う。

優越感や劣等感、プライドの高さなんて生きていく上で必要ない感情なんじゃないかな…

ふとまた不満のようなネガティブな気持ちが大きくなっていた。まずお湯を沸かしてコーヒカップを温めよう。そしてコーヒーを淹れて休憩しよう。外は素晴らしく良い天気だ。太陽の光が全てを輝かせている。天の恵み。小さな冴えない車屋の事務所の中から、人生のトンネルから抜け出せない冴えない人間が、コーヒーを飲みながらぼんやりと休憩しよう。

ネガティブなものをとりあえず振り払ってコーヒーを淹れ始めた。

その時、店のドアが開いて、1人の男が入ってきた。

◇◇◇まえがき◇◇◇

少し風の強い夕方。

いつもの通り散歩へ行く。

いつもの散歩コース。右手には田植えを待つ田んぼ。左手には野草が生えた畑。その間の道を歩いていく。太陽はもうすぐ沈んで、気温も下がって暗くなっていく。

でも俺の足取りは軽く、幸せな気持ちでいっぱいだ。

大好きな時間。夕方の飼い主との散歩の時間。

ぼくは黒毛のシバ犬。現在、10歳、あと2ヶ月くらいで11歳になる。体重は15キロほど。

見た目はやや(?)ぽっちゃりしている。

11歳は犬の年齢ではもう老犬になる。運動量は落ちたし、寝る時間も増えた気がする。老犬と言われれば老犬なんだろうな。でも、自分で歩いて散歩へ行けるし、食欲もある。

ぼくたち犬は、老犬と言われる歳になっても、体力つけよう、筋トレー!とか、若見え、アンチエイジングー!なんてことはしない。生きていれば歳は取る。誰だって老いていく。当たり前のこと。

ぼくたちは、ただ今を生きてる。今を幸せになるように生きてるだけ。生まれて、今を生きて、そして命が尽きれば空へ旅立っていく。それだけだ。

ぼくは黒毛のシバ犬。ぱちっと開いた輝く瞳、散歩している時には、通りすがりの人に、可愛い、とか、イケワン、と言われたりする。

そういってくれる人も、やはり自分の飼い犬の方が可愛い、と思っている。犬が好きな人は、犬を見たら、可愛い、と言ってしまうように思う。

色んな犬がいて、色んな人間がいて、色んな飼い主がいて、人(犬)それぞれ、人(犬)の思いは99通り以上あるように思う。

ぼくたち犬の世界は、シンプルで、人の世界ようにややこしく複雑ではない。

大好きな仲間と、飼い主と一緒にいて、散歩に行ったり、遊んだり、撫でてもらったり、大好きな飼い主や仲間との時間をとことん愛する。

感情だってもちろんある。撫でてもらって嬉しい、ご飯を食べて幸せ、散歩に行って楽しい、怒られて悲しい。命があればどんな生き物も一緒だろう。生きている、置物やぬいぐるみではない。

飼い主の見た目や、太っている、モデル級スタイル、イケメンだろうが、ブサイクだろうが、経済状況や、大金持ちだろうが、貧乏だろうが、そんなことは全く気にならない。

ぼくたち犬は飼い主をただ愛してるだけ。

愛する人と、一緒にいられれば、幸せ100点満点なのだ。他のことはどうでもいい。

もしも飼い主が、何か失敗して怒られてひどく落ち込んだとしても、みんなに馬鹿にされるような恥ずかしいことがあっても、帰ってきたら最高の笑顔で玄関まで走って迎えにいく。

何度も言うが、そんなことはどうだっていい。ただ一緒に居れる時間を愛してる。

ぼくの飼い主は優しかった。でもふと顔を見上げると暗い表情をしてることが多かった。なぜ暗い表情なのかは分からない。そんな時は部屋の中に転がっているぼくのお気に入りのおもちゃを飼い主のところをへ持っていって、しっぽをブンブン振りながら渡す。すると暗い表情から一変して、笑顔でおもちゃを持ってぼくと遊んでくれる。

できるなら、一緒にいる人にはいつも笑っていてほしい。

一緒にいつも笑っていたい。